伝染性膿皮症
- 膿痂疹には非水疱性と水疱性の2種類がある
診断
- 非水疱性膿痂疹は丘疹から始まり、その後、周囲に紅斑を伴う小水疱を形成し、さらにその後、表面に黄色の痂皮を形成する特徴がある。
- 水疱性膿痂疹では小水疱が形成され、その後、黄色の漿液を内包する弛緩性水疱が形成される。それが破綻すると茶色の薄い痂皮が形成されるという特徴がある。
治療
- 外用抗菌薬:
- 治療には外用抗菌薬を使用する。外用抗菌薬としてはフシジン酸(フシジンレオ軟膏)、テトラサイクリン系薬であるテトラサイクリン(アクロマイシン)などが選択となる。MRSAが想起される際や治療難渋例にはムピロシン(バクトロバン)の使用を考慮する。
- 内服薬:
- 外用が難しい例や全身に病変が広がっている場合には内服薬を考慮する。内服薬はセファレキシン(ケフレックス)、クリンダマイシン(ダラシン)、アモキシシリン・クラブラン酸配合(オーグメンチン)が選択肢となる。MRSAを想起する際はST合剤(バクタ)が選択肢となる。
- 治療期間:
- 通常、3~4日後に外来で皮疹の消褪傾向を確認する。経過が良好なら7日程度の抗菌薬使用でよいとする報告がある。
- 隔離:
- 治療開始後24時間は感染性が強いので、登校や出勤を避けさせる。
- 医療従事者は、水疱内容が完全に乾燥するまで基本的に職場復帰を避けたほうがよいと考えられる。
SPP(Skin Perfusion Pressure) 皮膚組織灌流圧
- <SPP検査結果>
- SPP<30mmHg 重症虚血肢
SPP≦40mmHg 潰瘍治療の可能性が高い
- <SPPの適応>
-
- 重症虚血肢(CLI)のアセスメント
- PTA、下肢バイパス術のモニターリング
- 難治性潰瘍の治癒予測
- 四肢切断レベルの判定
- 糖尿病性足病変などの石灰化症例の重症度評価
SPPはABI測定などでは評価が難しい浮腫や、糖尿病などによる血管の石灰化を伴う患者様でも比較的、容易に検査ができ、また最末梢の足部皮膚レベルの評価が可能です。
ABIと異なり、血行を調べたい部位で測定ができ、また、毛細血管の血流まで調べることができる。石灰化の影響も受けないため、糖尿病患者や透析患者にも監査が可能。
(2)下肢創傷を治療するための治療アルゴリズム
SPPを中心とした潰瘍の虚血評価を行いますが、潰瘍の近位部のSPP値を参考にして治療を進めます。SPP<40mmHgの場合、末梢血行再建術を施行し、SPP≧40mmHgの場合は末梢血行再建術を行わずに創傷治療を施行します1)。
(1)下肢のAngiosome(主幹動脈から末梢動脈への供給)について
踵部については、PTAとPAの両方から栄養されます。
足底部については、PTAより内側、外側の足底動脈に分岐し、足底動脈弓で再度連結します。最終的には足底趾動脈へと栄養しますが、足背動脈との穿通枝による連結も重要で、CLIにおいては、PTAの血流改善が救肢の鍵となります。
(2)基本的な測定方法、部位 <下肢血流のスクリーニングを目的とする場合>
左記のように、スクリーニングにおいては、足部の足背側と足底側を評価することを基本とし、より簡便に評価する場合は、足底側の1箇所で評価します。
下腿前面は前脛骨動脈(ATA)→足背動脈を経由して足背の多くを栄養し、下腿後面は後脛骨動脈(PTA)→内側および外側足底動脈を経由して末梢まで栄養していますが、解剖学的に足部の血流は、足底側の血流の影響が大きいと考えられるため、スクリーニングにおいては、足底側の評価を行います。
足背部、足底部の評価に加えて、第1趾を評価することで、より足趾末梢側の情報も得られます。
(3)基本的な測定方法、部位 <下肢創傷の治療を目的とする場合>
基本は創傷、壊死組織の中枢側近位部を優先します。これによって、創傷そのものが治癒機転の働く血流を有しているか否かが概ね判断できます。必要に応じて、その周辺も評価します。
(4)<具体例>
【注意事項】
- 骨や腱の上に突出した部位は避けて下さい。
- 測定部位に黒色や赤色のペンによるマーキングは避けて下さい。測定できない場合があります。
患者が仰臥位の状態で検査して下さい。
- ※透析患者さんなどで、座位でなければ測定できない時は、以下を参考値として下さい。 正常の場合、仰臥位においてSPP値 80~90mmHgが、座位(下肢下垂)においては120mmHg程度に上昇します。
検査を行う部位に応じて適切なサイズのカフを使用して下さい。
患者の体温は検査部位と同じぐらいの快適/正常な温度でなければなりません。そうでない場合は、医師の判断により患者を毛布で覆って下さい。
SPPの測定手順について
-
測定部位を選択します。
-
レーザセンサ先端部が測定部位にあたるよう設置します。
-
レーザセンサを設置したら、テープなどでしっかり固定します。
-
エアホースの向きを考慮して、カフをレーザセンサの上に巻きます。
-
ゆるみのない程度に、カフをしっかりと固定します。
-
カフとエアホースを接続し、測定を開始して下さい。
-
【注意】
レーザセンサ先端部がブラダー(袋)の中央になるように配置して下さい。
-
【推奨】
感染予防のため、レーザセンサ設置前に、ラップを用いて保護します。
輸血の指標
[要約]赤血球濃厚液の適正使用
■ 目的
● 赤血球補充の第一義的な目的は、末梢循環系へ十分な酸素を供給することにある。
■ 使用指針
1) 慢性貧血に対する適応(主として内科的適応)
[血液疾患に伴う貧血]
● 高度の貧血の場合には,一般に1~2単位/日の輸血量とする。
● 慢性貧血の場合にはHb値7g/dLが輸血を行う一つの目安とされているが,貧血の進行度,罹患期間等により必要量が異なり,一律に決めることは困難である。
* Hb値を10g/dL以上にする必要はない。
* 鉄欠乏,ビタミンB12欠乏,葉酸欠乏,自己免疫性溶血性貧血など,輸血以外の方法で治療可能である疾患には,原則として輸血を行わない。
[慢性出血性貧血]
● 消化管や泌尿生殖器からの,少量長期的な出血による高度の貧血は原則として輸血は行わない。日常生活に支障を来す循環器系の臨床症状(労作時の動悸・息切れ,浮腫など)がある場合には,2単位の輸血を行い,臨床所見の改善の程度を観察する。全身状態が良好な場合は,ヘモグロビン(Hb)値6g/dL以下が一つの目安となる。
2) 急性出血に対する適応(主として外科的適応)
● Hb値が10g/dLを超える場合は輸血を必要とすることはないが,6g/dL以下では輸血はほぼ必須とされている。
* Hb値のみで輸血の開始を決定することは適切ではない。
3) 周術期の輸血
(1) 術前投与
● 患者の心肺機能,原疾患の種類(良性または悪性),患者の年齢や体重あるいは特殊な病態等の全身状態を把握して投与の必要性の有無を決定する。
* 慣習的に行われてきた術前投与のいわゆる10/30ルール(Hb値10g/dL,ヘマトクリット(Ht)値30%以上にすること)は近年では根拠のないものとされている。
(2) 術中投与
● 循環血液量の20~50%の出血量に対しては,人工膠質液(ヒドロキシエチルデンプン(HES),デキストランなど)を投与する。赤血球不足による組織への酸素供給不足が懸念される場合には,赤血球濃厚液を投与する。この程度までの出血では,等張アルブミン製剤(5%人血清アルブミン又は加熱人血漿たん白)の併用が必要となることは少ない。
循環血液量の50~100%の出血では,適宜等張アルブミン製剤を投与する。なお,人工膠質液を1,000mL以上必要とする場合にも等張アルブミン製剤の使用を考慮する。
● 循環血液量以上の大量出血(24時間以内に100%以上)時又は,100mL/分以上の急速輸血をするような事態には,新鮮凍結血漿や血小板濃厚液の投与も考慮する。
● 通常はHb値が7~8g/dL程度あれば十分な酸素の供給が可能であるが,冠動脈疾患などの心疾患あるいは肺機能障害や脳循環障害のある患者では,Hb値を10g/dL程度に維持することが推奨される。
(3) 術後投与
● 術後の1~2日間は細胞外液量と血清アルブミン濃度の減少が見られることがあるが,バイタルサインが安定している場合は,細胞外液補充液の投与以外に赤血球濃厚液,等張アルブミン製剤や新鮮凍結血漿などの投与が必要となる場合は少ない。
■ 投与量
● 赤血球濃厚液の投与によって改善されるHb値は,以下の計算式から求めることができる。
予測上昇Hb値(g/dL)= 投与Hb量(g)/循環血液量(dL)
循環血液量:70mL/kg{循環血液量(dL)= 体重(kg)×70mL/kg/100}
例えば,体重50kgの成人(循環血液量35dL)にHb値14~15g/dLの血液を2単位(400mL由来MAP加赤血球濃厚液1バッグ中の含有Hb量は14~15g/dL×4 dL =56~60g)輸血することにより,Hb値は約1.6~1.7g/dL上昇することになる。
■ 不適切な使用
● 凝固因子の補充を目的としない新鮮凍結血漿との併用
● 末期患者への投与
■ 使用上の注意点
1) 感染症の伝播
2) 鉄の過剰負荷
3) 輸血後移植片対宿主病(GVHD)の予防対策
4) 白血球除去フィルターの使用
5) 溶血性副作用
[要約]血小板濃厚液の適正使用
■ 目的
● 血小板輸血は、血小板成分を補充することにより止血を図り、又は出血を防止することを目的とする。
■ 使用指針
以下に示す血小板数はあくまでも目安であって,すべての症例に合致するものではない。
● 血小板数が2~5万/μLでは,止血困難な場合には血小板輸血が必要となる。
● 血小板数が1~2万/μLでは,時に重篤な出血をみることがあり,血小板輸血が必要となる場合がある。血小板数が1万/μL未満ではしばしば重篤な出血をみることがあるため,血小板輸血を必要とする。
* 一般に,血小板数が5万/μL以上では,血小板輸血が必要となることはない。
* 慢性に経過している血小板減少症(再生不良貧血など)で,他に出血傾向を来す合併症がなく,血小板数が安定している場合には,血小板数が5千~1万/μLであっても,血小板輸血は極力避けるべきである。
1) 活動性出血
● 血小板減少による重篤な活動性出血を認める場合(特に網膜,中枢神経系,肺,消化管などの出血)には,血小板数を5万/μL以上に維持するように血小板輸血を行う。
2) 外科手術の術前状態
● 血小板数が5万/μL未満では,手術の内容により,血小板濃厚液の準備又は,術直前の血小板輸血の可否を判断する。
* 待機的手術患者あるいは腰椎穿刺,硬膜外麻酔,経気管支生検,肝生検などの侵襲を伴う処置では,術前あるいは施行前の血小板数が5万/μL以上あれば,通常は血小板輸血を必要とすることはない。
3) 人工心肺使用手術時の周術期管理
● 術中・術後を通して血小板数が3万/μL未満に低下している場合には,血小板輸血の適応である。ただし,人工心肺離脱後の硫酸プロタミン投与後に血算及び凝固能を適宜検査,判断しながら,必要に応じて5万/μL程度を目処に血小板輸血開始を考慮する。
● 複雑な心大血管手術で長時間(3時間以上)の人工心肺使用例,再手術などで広範な癒着剥離を要する例,及び慢性の腎臓や肝臓の疾患で出血傾向をみる例の中には,血小板減少あるいは止血困難な出血(oozingなど)をみることがあり,凝固因子の欠乏を伴わず,このような病態を呈する場合には,血小板数が5万/μL~10万/μLになるように血小板輸血を行う。
4) 大量輸血時
● 急速失血により24時間以内に循環血液量相当量ないし2倍量以上の大量輸血が行われ,止血困難な出血症状とともに血小板減少を認める場合には,血小板輸血の適応となる。
5) 播種性血管内凝固(DIC)
● 出血傾向の強く現れる可能性のあるDIC(基礎疾患が白血病,癌,産科的疾患,重症感染症など)で,血小板数が急速に5万/μL未満へと低下し,出血症状を認める場合には,血小板輸血の適応となる。
* 慢性DICについては,血小板輸血の適応はない。
6) 血液疾患
(1) 造血器腫瘍
● 急性白血病・悪性リンパ腫などの寛解導入療法においては,血小板数が1~2万/μL未満に低下してきた場合には血小板数を1~2万/μL以上に維持するように,計画的に血小板輸血を行う。
(2) 再生不良性貧血・骨髄異形成症候群
● 血小板数が5千/μL前後ないしそれ以下に低下する場合には,血小板輸血の適応となる。
● 計画的に血小板数を1万/μL以上に保つように努める。
* 血小板減少は慢性に経過することが多く,血小板数が5千/μL以上あって出血症状が皮下出血斑程度の軽微な場合には,血小板輸血の適応とはならない。
(3) 免疫性血小板減少症
● 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)で外科的処置を行う場合には,まずステロイド剤等の事前投与を行い,これらの効果が不十分で大量出血の予測される場合には,適応となる場合がある。
* 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,通常は血小板輸血の対象とはならない。
● ITPの母親から生まれた新生児で重篤な血小板減少症をみる場合には,交換輸血のほかに副腎皮質ステロイドあるいは免疫グロブリン製剤の投与とともに血小板輸血を必要とすることがある。
● 血小板特異抗原の母児間不適合による新生児同種免疫性血小板減少症(NAIT)で,重篤な血小板減少をみる場合には,血小板特異抗原同型の血小板輸血を行う。
* 輸血後紫斑病(PTP)では,血小板輸血の適応はない。
(4) 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)及び溶血性尿毒症症候群(HUS)
* 原則として血小板輸血の適応とはならない。
(5) 血小板機能異常症
● 重篤な出血ないし止血困難な場合にのみ血小板輸血の適応となる。
(6) その他:ヘパリン起因性血小板減少症(Heparin induced thrombocytopenia;HIT)
● 血小板輸血は禁忌である。
7) 固形腫瘍
● 固形腫瘍に対して強力な化学療法を行う場合には,必要に応じて血小板数を測定する。
● 血小板数が2万/μL未満に減少し,出血傾向を認める場合には,血小板数が1~2万/μL以上を維持するように血小板輸血を行う。
8) 造血幹細胞移植(骨髄移植等)
● 造血幹細胞移植後に骨髄機能が回復するまでの期間は,血小板数が1~2万/μL以上を維持するように計画的に血小板輸血を行う。
● 通常,出血予防のためには血小板数が1~2万/μL未満の場合が血小板輸血の適応となる。
■ 投与量
血小板輸血直後の予測血小板増加数(/μL) = 輸血血小板総数
循環血液量(mL)×103 × 2
3
(循環血液量は70 mL/kgとする)
例えば,血小板濃厚液5単位(1.0×1011個以上の血小板を含有)を循環血液量5,000mL(体重65kg)の患者に輸血すると,直後には輸血前の血小板数より13,500/μL以上増加することが見込まれる。
なお,一回投与量は,原則として上記計算式によるが,実務的には通常10単位が使用されている。体重25kg以下の小児では10単位を3~4時間かけて輸血する。
■ 不適切な使用
1) 末期患者への血小板輸血の考え方
単なる時間的延命のための投与は控えるべきである。
[要約]新鮮凍結血漿の適正使用
■ 目的
● 凝固因子の補充による治療的投与を主目的とする。観血的処置時を除いて新鮮凍結血漿の予防的投与の意味はない。
■ 使用指針
新鮮凍結血漿の投与は,他に安全で効果的な血漿分画製剤あるいは代替医薬品(リコンビナント製剤など)がない場合にのみ,適応となる。投与に当たっては,投与前にプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を測定し,大量出血ではフィブリノゲン値も測定する。
1) 凝固因子の補充
(1) PTおよび/またはAPTTが延長している場合((1)PTは(ⅰ)INR 2.0以上,(ⅱ)30%以下/(2)APTTは(ⅰ)各医療機関における基準の上限の2倍以上,(ⅱ)25%以下とする)
● 肝障害:肝障害により複数の凝固因子活性が低下し,出血傾向のある場合に適応となる。
* PTがINR 2.0以上(30%以下)で,かつ観血的処置を行う場合を除いて新鮮凍結血漿の予防的投与の適応はない。
● L-アスパラギナーゼ投与関連:肝臓での産生低下による凝固因子の減少に加え,抗凝固因子や線溶因子の産生低下がみられる場合,これらの諸因子を同時に補給するためには新鮮凍結血漿を用いる。
● 播種性血管内凝固(DIC):通常,(1)に示すPT,APTTの延長のほかフィブリノゲン値が100mg/dL未満の場合に新鮮凍結血漿の適応となる(参考資料1 DIC診断基準参照)。
● 大量輸血時: 希釈性凝固障害による止血困難が起こる場合に新鮮凍結血漿の適応となる。
外傷などの救急患者では,消費性凝固障害が併存しているかを検討し,凝固因子欠乏による出血傾向があると判断された場合に限り,新鮮凍結血漿の適応がある。
● 濃縮製剤のない凝固因子欠乏症:血液凝固第V,第XI因子のいずれかの欠乏症またはこれらを含む複数の欠乏症では,出血症状を示しているか,観血的処置を行う際に新鮮凍結血漿が適応となる。
● クマリン系薬剤(ワルファリンなど)の効果の緊急補正(PTがINR 2.0以上(30%以下)):ビタミンKの補給により通常1時間以内に改善が認められる。より緊急な対応のために新鮮凍結血漿の投与が必要になることが稀にあるが、この場合でも直ちに使用可能な場合には「濃縮プロトロンビン複合体製剤」を使用することも考えられる。
(2) 低フィブリノゲン血症(100mg/dL未満)の場合
● 播種性血管内凝固(DIC)
● L-アスパラギナーゼ投与後
2) 凝固阻害因子や線溶因子の補充
● プロテインCやプロテインSの欠乏症における血栓症の発症時には必要に応じて新鮮凍結血漿により欠乏因子を補充する。プラスミンインヒビターの欠乏による出血症状に対しては抗線溶薬を併用し,効果が不十分な場合には新鮮凍結血漿を投与する。
3) 血漿因子の補充(PT及びAPTTが正常な場合)
● 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP):後天性TTPに対しては新鮮凍結血漿を置換液とした血漿交換療法を行う。先天性TTPでは,新鮮凍結血漿の単独投与で充分な効果がある。
* 後天性溶血性尿毒症症候群(HUS)では,新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法は必ずしも有効ではない。
■ 投与量
● 生理的な止血効果を期待するための凝固因子の最少の血中活性値は,正常値の20~30%程度である。
循環血漿量を40mL/kg(70mL/kg(1-Ht/100))とし,補充された凝固因子の血中回収率は目的とする凝固因子により異なるが,100%とすれば,凝固因子の血中レベルを約20~30%上昇させるのに必要な新鮮凍結血漿量は,理論的には8~12mL/kg(40mL/kgの20~30%)である。
■ 不適切な使用
1) 循環血漿量減少の改善と補充
2) 蛋白質源としての栄養補給
3) 創傷治癒の促進
4) 末期患者への投与
5) その他
重症感染症の治療,DICを伴わない熱傷の治療,人工心肺使用時の出血予防,非代償性肝硬変での出血予防なども新鮮凍結血漿投与の適応とはならない。
■ 使用上の注意点
1) 融解法
2) 感染症の伝播
3) クエン酸中毒(低カルシウム血症)
4) ナトリウムの負荷
5) アレルギー反応
6) 輸血セットの使用
[要約]アルブミン製剤の適正使用
■ 目的
● 急性の低蛋白血症に基づく病態,また他の治療法では管理が困難な慢性低蛋白血症による病態に対して,アルブミンを補充することにより一時的な病態の改善を図るために使用する。
■ 使用指針
1) 出血性ショック等
● 循環血液量の30%以上の出血をみる場合は,細胞外液補充液の投与が第一選択となり,人工膠質液の併用も推奨されるが、原則としてアルブミン製剤の投与は必要としない。
● 循環血液量の50%以上の多量の出血が疑われる場合や血清アルブミン濃度が3.0g/dL未満の場合には,等張アルブミン製剤の併用を考慮する。
● 腎機能障害などで人工膠質液の使用が不適切と考えられる場合には,等張アルブミン製剤を使用する。また,人工膠質液を1,000mL以上必要とする場合にも,等張アルブミン製剤の使用を考慮する。
2) 人工心肺を使用する心臓手術
通常,心臓手術時の人工心肺の充填には,主として細胞外液補充液が使用される。人工心肺実施中の血液希釈で起こった一時的な低アルブミン血症は,アルブミン製剤を投与して補正する必要はない。ただし,術前より血清アルブミン濃度または膠質浸透圧の高度な低下のある場合,あるいは体重10kg未満の小児の場合などには等張アルブミン製剤が用いられることがある。
3) 肝硬変に伴う難治性腹水に対する治療
● 大量(4L以上)の腹水穿刺時に循環血漿量を維持するため,高張アルブミン製剤の投与が考慮される。また,治療抵抗性の腹水の治療に,短期的(1週間を限度とする)に高張アルブミン製剤を併用することがある。
* 肝硬変などの慢性の病態による低アルブミン血症は,それ自体ではアルブミン製剤の適応とはならない。
4) 難治性の浮腫,肺水腫を伴うネフローゼ症候群
* ネフローゼ症候群などの慢性の病態は,通常アルブミン製剤の適応とはならないが,急性かつ重症の末梢性浮腫あるいは肺水腫に対しては,利尿薬に加えて短期的(1週間を限度とする)に高張アルブミン製剤の投与を必要とする場合がある。
5) 循環動態が不安定な血液透析等の体外循環施行時
● 血圧の安定が悪い場合に血液透析時において,特に糖尿病を合併している場合や術後などで低アルブミン血症のある場合には,循環血漿量を増加させる目的で予防的投与を行うことがある。
6) 凝固因子の補充を必要としない治療的血漿交換法
* ギランバレー症候群,急性重症筋無力症など凝固因子の補充を必要としない症例では,等張アルブミン製剤を使用する。
* 加熱人血漿たん白は,まれに血圧低下をきたすので,原則として使用しない。
7) 重症熱傷
● 熱傷部位が体表面積の50%以上あり,細胞外液補充液では循環血漿量の不足を是正することが困難な場合には,人工膠質液あるいは等張アルブミン製剤で対処する。
* 熱傷後,通常18時間以内は原則として細胞外液補充液で対応するが,18時間以内であっても,血清アルブミン濃度が1.5g/dL未満の時は適応を考慮する。
8) 低蛋白血症に起因する肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合
● 術前,術後あるいは経口摂取不能な重症の下痢などによる低蛋白血症が存在し,治療抵抗性の肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合には,高張アルブミン製剤の投与を考慮する。
9) 循環血漿量の著明な減少を伴う急性膵炎など
● 急性膵炎,腸閉塞などで循環血漿量の著明な減少を伴うショックを起こした場合には,等張アルブミン製剤を使用する。
■ 投与量
● 投与量の算定には下記の計算式を用いる。このようにして得られたアルブミン量を患者の病状に応じて,通常2~3日で分割投与する。
必要投与量(g) = 期待上昇濃度(g/dL)× 循環血漿量(dL)×2.5
ただし,期待上昇濃度は期待値と実測値の差,循環血漿量は0.4dL/kg,投与アルブミンの血管内回収率は4/10(40%)とする。
■ 不適切な使用
1) 蛋白質源としての栄養補給
2) 脳虚血
3) 単なる血清アルブミン濃度の維持
4) 末期患者への投与
■ 使用上の注意点
1) ナトリウム含有量
2) 肺水腫,心不全
3) 血圧低下
4) 利尿
5) アルブミン合成能の低下
※
また体液の水分分布は細胞内液が体重の約40%,細胞外液が約20%
(間質には約15%,血漿には約5%)。
すなわち,体重50kgの人では循環血液量は3.8L,血漿は2.5Lとなり
ます。(血管内の量は2.5L)
約1.3Lの差があります。この差はいったいどうなっているのでしょうか?
実は血液は血球成分と血漿成分に分かれます。もしヘマトクリット値が
35%とすると,血球成分は3.8L×0.35=1.3Lとなります。
水分量は3.8-1.3=2.5Lとなり血漿成分と等しくなります。
つまり循環血液量は3.8Lですが,血管内水分量は2.5Lとなります。
血管奇形•血管奇形 ISSVA分類
ISSVA分類
ISSVA分類の概要
ISSVA(The International Society for the Study of Vascular Anomalies)分類において、血管やリンパ管(脈管)が増殖した病態は、「血管性腫瘍」と「血管奇形」に分けて考えられます。
血管性腫瘍は「良性」、「局所悪性又は中間型」、及び「悪性」に分類されます。
血管奇形は、異常を認める部位に応じて「毛細血管奇形(Capillary malformation : CM)」、「リンパ管奇形(Lymphatic malformation : LM)」、「静脈奇形(Venous malformation : VM)」、「動静脈奇形(Arteriovenous malformation : AVM)」、及び「動静脈瘻(Arteriovenous fistula : AVF)」に分類されます。血管奇形では異常を認める部位が混在する病変も多く、この場合は、例えば「毛細血管静脈奇形(Capillary venous malformation : CVM)」というように、存在する部位を列挙して呼称します。
ISSVA分類
血管性腫瘍 | 血管奇形 | |
---|---|---|
単独病変 | 複合病変* | |
良性 |
毛細血管奇形(CM) |
CVM、CLM |
*1病変あたり2種類以上の血管奇形
**高流速病変
<出典>ISSVA Classification for Vascular Anomalies © 2014 The International Society for the Study of Vascular Anomalies Available at“issva.org/classification”より改変
血管性腫瘍の種類
ISSVA分類で提示している血管性腫瘍は下表のとおりです。
幼少時に存在する血管腫として、「乳児血管腫」のほか、「先天性血管腫」、「房状血管腫(Tufted angioma):血管芽細胞腫(中川)(Angioblastoma of Nakagawa)」、「カポジ肉腫様血管内皮腫」などがあります。
血管性腫瘍の種類
良性 |
|
---|---|
局所悪性又は中間型 |
|
悪性 |
|
<出典>ISSVA Classification for Vascular Anomalies © 2014 The International Society for the Study of Vascular Anomalies Available at“issva.org/classification”より改変
血管奇形の種類
形成異常を呈する脈管に応じた血管奇形の種類は、ISSVA分類の概要で述べたとおりです。
このほかに、血液・リンパ液の流速により、「低流速血管奇形(Slow-flow vascular malformations)」と「高流速血管奇形(Fast-flow vascular malformations)」に大きく分けられます。毛細血管、静脈又はリンパ管に奇形を認める場合は低流速、動脈に形成異常を認める場合は高流速に分類されます。
血管奇形の種類
低流速血管奇形 |
|
---|---|
高流速血管奇形 |
|
<出典>血管腫・血管奇形 診療ガイドライン 作成委員会 編. 血管腫・血管奇形 診療ガイドライン 2013 より改変
ISSVA分類と従来の分類の対比
日本では血管性腫瘍や血管奇形の疾患概念、分類方法がほとんど知られておらず、慣用的な用語を含め、従来からの名称が広く使用されてきました。
しかし、なるべく単純で分かりやすい世界共通の病名を用いて血管性腫瘍と血管奇形を分類したISSVA分類の登場により、これに基づいて診断を行い、治療方針を決定することが国際的に標準化されつつあります。
なお、従来日本で「苺状血管腫」とされてきた病態は、ISSVA分類に準じて「乳児血管腫(Infantile hemangioma)」と呼称されるようになりつつあります。
ISSVA分類と従来の分類の対比
従来の分類 | ISSVA分類 |
---|---|
血管性腫瘍 |
|
苺状血管腫 |
乳児血管腫 |
血管奇形 |
|
海綿状血管腫 |
静脈奇形 |
静脈性血管腫 |
|
筋肉内血管腫 |
|
滑膜血管腫 |
|
動静脈血管腫 |
動静脈奇形 |
単純性血管腫 |
毛細血管奇形 |
毛細血管拡張症 |
|
ポートワイン母斑 |
|
リンパ管腫 |
リンパ管奇形 |
<出典>血管腫・血管奇形 診療ガイドライン 作成委員会 編. 血管腫・血管奇形 診療ガイドライン 2013
血管腫・血管奇形
●血管腫と血管奇形の違い
血管腫:生後急速に増大し、その後徐々に退縮
血管奇形:出生前から存在し、外傷や感染、ホルモン変調など成長によって増大する
血管腫(hemangioma)
血管内皮細胞が異常増殖する小児の良性腫瘍。通常出生時にはみられず、生後まもなく出現して急速に増大するが、90%以上は7歳くらいまでに自然退縮する。女性:男性=3:1で女性に多く、遺伝性なし。多くの血管腫は自然退縮するため、経過観察のみでとくに治療を必要としないが、病変が大きい場合にはレーザー治療や切除を行う。
従来、『毛細血管性血管腫』『苺状血管腫』『苺状母斑』と称されていたものがこれに相当。
視診:皮膚表面の血管腫では鮮やかな深紅色の隆起がみられ、多くは直径0.5~5㎝で境界明瞭。地図上にひろがるものもある。皮下組織の血管腫では皮膚が少しふくらんで青みがかった色になったり、ふくらみもなく普通の色と変わらないこともある。
血管奇形(vascular malformation)
先天的な血管の形成異常で、血管内皮細胞は正常。出生前から存在し、身体の成長に比例して増大し、自然退縮することはない。女性:男性=1:1で性別による差はなく、ほとんどの血管奇形には遺伝性はないが、Rendu-Osler-Weber症候群など特殊な遺伝性疾患もある。
従来、『ポートワイン色病変』『火炎状母斑』『海綿状血管腫』『静脈性血管腫』『リンパ管腫』『動静脈奇形』『単純性血管腫』『リンパ管腫』などと称されていたものが相当。
臨床上、血流の遅いもの(low-flow-lesion)と血流の速いもの(high-flow-lesion)に分けられ、さらにそれらは血流の遅い『毛細血管奇形』『静脈奇形』『リンパ管奇形』と血流の速い『動静脈奇形』に分けられる。
それぞれの症状にあわせて、手術や塞栓術、硬化療法などの治療がおこなわれる。
•毛細血管奇形(capillary malformation)
皮膚の毛細血管の拡張によるもので、病変は平らで境界明瞭。赤ワイン色を示すことからポートワイン色病変ともよばれる。美容上の問題が中心で、レーザー治療がおこなわれる。まれに皮下の動静脈奇形と同時に存在することがあり、腰背分の毛細血管奇形では脊椎や脊髄の奇形を合併する可能性もある。従来『単純性血管腫』と称されていたものは、最近の分類ではこの『毛細血管奇形』に相当。
関連疾患として『Sturge-Weber症候群』『Rendu-Osler-Weber症候群』『毛細血管拡張性運動失調』などがある。
•静脈奇形(venous malformation)
海綿状あるいは嚢胞状の拡張した血管腔で、大きさや発生部位は様々。症状がない場合もあるが、徐々に増大して周辺組織を圧迫したり、神経の圧迫による疼痛や外傷による出血、血栓形成による疼痛をおこすことがある。
四肢の静脈奇形の特徴として、
①青色または紫色を呈する(皮膚表面の場合)
②病変部を下垂させたり、中枢側を駈血帯などで圧迫すると膨張が増強する
③病変部を心臓の高さより上方に挙上すると、縮小または軟化する
④理学的所見および画像所見上、動静脈短絡を認めない
の4点がある。
しばしば周囲の静脈拡張、深部静脈の異常や石灰化(静脈石)を伴う。
※静脈石とは、局所で凝固系の異常があったり血流が滞ることにより血栓が石灰化したもの。一度できると消失することはない。
静脈奇形の保存的治療にはサポーターなどによる圧迫が用いられ、血栓形成による疼痛には消炎鎮痛剤が有効。
症状によって、手術や塞栓術、硬化療法やレーザー治療などがおこなわれるが、
外科的治療の場合には病変を完全に摘出する必要があり、不完全な摘出手術をおこなうと残った異常血管が拡張したり、
創傷治癒の過程で異常血管が新生して、
病変の再発をきたす可能性がある。
従来『海綿状血管腫』と称されていたものが相当。
関連症候群として、『青色ゴムまり様母斑症候群』『Klippel-Trenaunay-Weber症候群』などがある。
リンパ管奇形(lymphatic malformation)
血液のかわりにリンパ液を含んだ、血流のない血管奇形として扱われ、しばしば静脈奇形や動静脈奇形を合併。
リンパ管奇形には、
①リンパ管とリンパ節の異常からリンパ流が障害され、リンパ浮腫を生じるもの
②単発あるいは多発の嚢胞性病変を生じるもの
③乳びの循環障害を生じるもの
の3つのタイプがあり、腋窩や肩などによく発生する。
炎症や圧迫症状、美容上の問題がある場合には硬化療法の適応。
従来『リンパ管腫』と称されていたものは正確には『リンパ管奇形』に分類される。
動静脈奇形(arteriovenous malformation)
動脈と静脈が正常の毛細血管を介さずに異常な交通を生じた先天性の病変。
動静脈奇形には、
①頭頚部や四肢などの比較的太い動脈幹と静脈に生じるもの、
②四肢などの動静脈間に無数の細かな交通を生じるもの(びまん型)、
③肺や脳、肝臓、筋肉などに塊状の異常血管を生じるもの(局限型)、
の3つのタイプがあり、
第Ⅰ期(静止期)、第Ⅱ期(拡張期)、第Ⅲ期(破壊期)、第Ⅳ期(代償不全期)
の四期にわけられる。
症状としては、第Ⅰ期では皮膚紅潮・発赤、第Ⅱ期では異常拍動音の聴取・増大、第Ⅲ期では疼痛・潰瘍・出血・感染、第Ⅳ期では心不全がみられる。
病期によって治療選択は異なり、手術や経動脈的塞栓術、塞栓硬化療法などがおこなわれるが、治療は困難。